マシュマロラズベリー


どうやらみんな裏口で出待ちをするようだ。普段なら私もみんなが向かう方へ促されていくタイプ。

でも今夜は違う。

みんなと同じ方へ向かったら大勢いるファンのひとりにしかなれない。高級チョコレートの中に埋もれてしまう。

このまま正面の出入口で待とう。もし瞬也が裏口から帰ってしまったら、それはそれでそういう運命なのだ。

向かいにある営業を終えた美容室の鏡に私の姿が映っている。右手の中指で唇に触れてみる。ぷるっとした果実のような質感と艶が指を通して伝わってくる。それは今日の為に、瞬也の為に、そして私自身の為に使ってきたラブコスメのおかげ。

瞬也は二十四歳。私は三十二歳。唇で歳の差を埋めたい。

唇から指を離した瞬間、車が止まる音がして、数秒後に「きゃー」というピンク色の歓声が噴水のように上がった。


裏口から『ラズベリー』のメンバーが出てきて車に乗り込む姿が私の目にリアルを装い浮かんだ。




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