マシュマロラズベリー
瞳から雫がぽつぽつと雨粒のように落ちていく。泣いたってどうしようもないんだ、と自分を言い聞かせるように、涙を塞ぐように目を閉じかけた時、正面の出入口から誰かが出てきた。
誰か、じゃない。それは私が待っていた瞬きの一瞬一瞬でさえ大切に見ていたい人。
「瞬也! でも、どうして? 車じゃないの」
「他のメンバーは車。俺は歩き。歩きたい気分なんだ」
瞬也はそう言いながらサングラスを外した。蒼さを秘めたブラウンの瞳が私を捉えている。吸い込まれそう。頬を伝っていた涙が乾いていく。
なにこのシチュエーション。神様がくれたご褒美? 毎日毎日、ヒールの底を磨り減らしながら営業で歩き回っている姿を神様は見ていてくれたんだ。
「いつも来てくれてるよね。ありがとう」
「えっ、そ、そんな。私、瞬也の事が。そうだ、バレンタイン。これもらってください!」
緊張で声が震えている。私は思考回路の青と黄色の線が緩く絡まったままチョコレートの入った袋を渡した。
「開けていい?」
「ここで、ですか」
「うん」
「……どうぞ」
瞬也は赤い袋から黒い小さな箱を取り出すと、私が今朝丁寧に結んだ銀色のリボンをほどいた。
そして、ネイルを塗りたくなるような繊細な指先でボンボンショコラを一粒口に入れた。