【完】籠球ロマンティック
『これはリッコとハーシーがくれた、おれがたたかうためのカメン』


「ほー、戦うための仮面か」


『そう。きらびやかな世界にたちむかうために、イカしたカメンがひつようだねってくれたもの』


その、足りない説明で男は全てを飲み込む。


論理が自分のことを周りに話したとは思えないけど、分からないなりに何か感じた仲間が、論理に『立ち向かう術』を与えてくれたのだと。


「良いね、イカしてるよ、とても」


『デショ?学校ではセンセーにおこられたけど、しゃべれないからとぼけてるんだ』


久しぶりに訪れた論理が喋れなくなったことに一抹の不安があった男は、その不安が綻ぶのを感じる。


喋れなくても、笑えなくても、論理は『喋り』『笑っている』と思うことが出来たから。


「それなら大丈夫だね。お薬出すから、きっとすぐにまた、彼等と喋れるよ」


『うれしい、ありがとう』


論理は治ることの無い傷を背負った、まだまだ幼い男の子。


それでも、現世のマスカレイドミラージュを、きらびやかな舞台を踊り始めているのだ。


「若いねぇ、おじさんも取り戻したいもんだ」


青春ってやつを、ね。


幼くして亡くなった大切な人の人生をも背負って輝く論理を見ていると、男はウインナーのように丸い自身の指が軽快に動き出してしまうほどに、心がときめくのだ。
< 173 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop