【完】籠球ロマンティック
その墓の前にしゃがみ、俺は、たまに来るここに毎回する儀式のようなことを、今回も行う。


コートのポケットからジャリ、と取り出した隠れた装備品は、毎日俺が飲んでる瓶ソーダの中に入ったガラス玉。


それを、花をお供えする用の花瓶の中にほい、と放り込む。


「おい父さんよ、あんたのマイハニー泣いてたぜ?男が女泣かしてんじゃねーよ……」


言ったって届かないけど、それでも、言わずには済まなかった。


人が泣いてるのを見るのは、なんだか苦手でしょうがない。


この間、恥ずかしながらリッコを抱き締めてプロポーズまがいのことを口走ってしまったのだって、半分テンパってたのもあるし。


まぁ、なんつーの、気持ちに嘘は無かったよ?俺、リッコのこと、んー、かなり好き、かも、だし。


多分、リッコも俺のこと好き、だし?


でもさ、あれだよあれ。今はトライアウトに向かって良い感じだから、付き合うとかそんなん、無理だろうし、気持ちの整理も付いてないわけさ。


「ってもー!訳わかんね、何で今このこと考えてんだよ俺ェ……」


ぎゅっと強く頬をつねってみても、痛いだけで気持ちは落ち着かない。


「父さん……俺、母親でもあんたの女は抱き締めてやれねぇんだよ」


やはりというかしかしというか、その声は、誰に届くでもなく夜空に吸い込まれていくしかない。
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