【完】籠球ロマンティック
ビールジョッキを掲げ、今にも一気飲みしそうだったハーシーは、口をあんぐりと開いたまま固まっている。


他のメンツも、まさかの俺の登場に、目を丸々とさせていた。


「ラブ、お前、何でここに?」


最初に口を開いたのはイツ。サラサラしたアシメの左側の髪の毛を掻き上げて、そのまま頭皮をポリポリと掻いている。


「いや……成り行き?ってか、家出ではねぇよ。そこ訂正しとく」


経緯をどう説明するか迷い、曖昧に答えると、その場のメンツ全員がホッとした顔をする。


「まぁ、年頃の男の子だからこういうこともあるよね。レン!こっちおいでよ!」


ハーシーがいつもと変わらぬ、少年らしい幼い顔なのに、やっぱりどこか大人びた笑顔で俺を中へと招く。


その隣に座ると、従業員らしきバイトの姉ちゃんが、俺の前にオレンジジュースを置いた。


「これ、何の会さ」


「えー?大人ですからね、何の会とかじゃないけど飲み会オール?明日仕事休みの連中ばっか集めてね」


「おい、俺は明日も仕事だぞ!」


ベシ、とハーシーの頭を叩いたイツは、ジュースみたいな色の、多分お酒の入ったグラスを持って俺の左隣へ腰を下ろす。


「とりあえず……乾杯」


「お……か、乾杯っ!」


「カーンパイ!」


俺とイツのグラス、それからハーシーのジョッキがキン、とぶつかり、爽やかな音を奏でる。


嗚呼、ここは、外よりずっと、温かい。
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