【完】籠球ロマンティック



その日の練習は、律子がすこぶる機嫌が悪く、苦笑の連発だった。


葉月ばかりか恋夜も揃って遅刻。おまけにストリートコートに逸人もセットで来たものだから、ご立腹状態。


見兼ねた論理が近所のコンビニで焼鳥レバーの串を買ってきて、律子に『てつ、ぶん』と食べさせていたり。


やはり、葉月の生きる世界はキラキラと、あの頃よりも眩しく輝いていて、たまに戸惑いを覚える。


自分は金石が眠っているのに、こんなにもキラキラしていて良いのだろうか、と迷ってしまうのだ。


でも、今日は戸惑いを覚えた時にあの、恋夜の円やかな呪文がふと、頭を過った。


「toi toi toi …… ふふっ、不思議、幸せが溢れるみたい」


あの、普段はつり目がちの強気な顔をした恋夜が唱えた、優しくロマンティックな、幸福を運ぶ呪文が、その葉月の戸惑いをほぐすよう。


きっとあの円やかさが、優しさが、金石にも伝わったのだろう。


彼女の涙を思い出すと、鼻の奥がツン、と痺れて止まない。


『toi toi toi 』……なんて美しく軽やかな響きなのだろう。葉月は空を仰いで、溢れそうな涙をく、と奥歯を噛み締めて塞き止めた。
< 217 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop