【完】籠球ロマンティック
《葉月君、落ち着いて聞いてくれ。美空が、今……息を、引き取った》


それは金石の父からの電話だった。


「え……?」


事態の飲み込めない葉月の手から、するり、と携帯電話が落ちて、冷たいアスファルトにカラン、と音を立てて落っこちる。


「ハーシー……ハーシー!」


一連を見届けていた逸人が肩を揺らしても、事態を飲み込めない葉月はフリーズしたまま。


逸人は一呼吸置き、代わりに葉月の携帯電話を握り耳に宛がう。


「すみません、ハーシー……えっと、葉月の友人です。すぐそちらに向かわせます」


《ああ……すまないね、よろしく頼むよ》


受話器の向こうの男は、冷静な声色だった。だがきっと、事態を飲み込めないでいるのは同じだろう、と逸人は思い、通話を一旦切る。


「ハーシー、行くぞ!ぼっとすんな!立て!」


あんなに温かい筈だった葉月を無理矢理引っ張れば、腕は温度を失い冷たくなっており、唇も青くなっている。


こんな葉月が一人で病院まで行けるとは思えず、逸人は久々に車を運転する決意をした。
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