【完】籠球ロマンティック
夜の病院は、静寂に包まれていた。不気味で、近寄り難いくらいに。
今まで、何度となく過ったこの悪夢の光景が、何度となく振り払った光景が、現実に起きている。
「俺達はここまでだ」
逸人と恋夜は、病室の前で葉月を見送り、不安を見せないよう固く、口を結ぶ。
どうにか少しだけ取り戻した冷静さを頼りに、葉月が病室の扉を開け放つと。
彼女は、月光に照らされて、美しく、清らかな空気を放ち眠っていた。
金石夫妻は彼女の傍らに座り、何も喋らない。
「か、かなっ……金石?おいってば。……だって……き、今日、泣いてくれたじゃん!う、うなっ……頷いて、泣いてくれたじゃん!なんで、だよぉ」
繋がっていた機械は全て外されており、彼女は穏やかに、本物の眠り姫のように、瞼を閉じている。
眠っているような彼女は、もう、葉月の生きるこの世界には永遠に戻ることは無いのだ。