【完】籠球ロマンティック
そして、葬儀が済み、金石の体さえどこか別の世界に旅立って数日、葉月の元へ金石の父から連絡が来た。


落ち着きを取り戻し、けれどどこか必要な体の一部が無くなったような、そんな感覚の葉月は、金石邸にいる自分が非現実な夢を見ているようだった。


「葉月君、君には娘も、僕達夫婦も感謝している。長い間娘に寄り添ってくれてありがとう。親だから分かる。君が来る時間、美空は幸せそうだった」


「いえ……俺はただ、また金石……美空、さんと、笑顔で話したかっただけですから」


だけどそれは遂に叶うことがなく、彼女は、新たな旅へ出てしまった。


「思えば君には僕達も強く当たってしまったね。君に当たるのはお門違いだというのに」


「そんな……あの日、俺が美空さんを試合に誘っていなければ、そう何度も思っていました。金石さんが俺を責める気持ちだって分かります」


そう言って微笑んだ葉月の顔は、あの頃と変わらないあどけなさと、けれど、数年もの決して短くはない月日を経て大人になった部分と、合間見えぬはずの二つの要素を持っている。


その顔に、夫妻はほろ苦い想いで一杯になる。


それほど、時間は過ぎていたのだと、告げられている気がしたからだ。
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