【完】籠球ロマンティック
「葉月君、僕達から君にひとつ、お願いがあるんだ。我が儘で重荷かもしれないが、聞いて貰えるだろうか?」


ほろ苦い想いを押し込め、金石の父がテーブルに、細長いロケットのついたペンダントを置く。


「これは……?」


「娘の遺骨が少し入っているんだ。娘に、君が走りながら見ている景色を見せてやってはくれないか?」


夫妻はこれが身勝手な頼みだと分かっていた。


娘が眠った時、やり場の無い怒りをまだ少年であった葉月にぶつけ傷付けたのに、なんておこがましい願いなのだと、罪悪感が無いわけではない。


だが、毎日、毎日、見捨てることもなく娘に会いに来る葉月を、夫妻は大切に思うようになっていた。信用していた。


そんな葉月にだからこそ、娘の一部を持っていてほしいと切望した。


しかし、未来のある青年に、あまりにも大きな重荷を背負わせてしまうかもしれない。


夫妻は、願った後に後悔をした。


後悔で押し潰されそうな想いで、恐る恐る葉月の顔色を窺ってみる。


……葉月は、そのロケットを甘やかな、とろけるような慈しむ瞳で見つめ、うっとりと、撫でていたのだ。


娘は、こんな純粋な人間に愛されて、さぞ幸せだっただろう、と夫妻の心は浮かばれた。
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