【完】籠球ロマンティック
「約束します。彼女に、俺の見てる景色を見せる、と。……ありがとうございます。大切なものを、俺に託して下さって」


葉月の目は、ただただ真っ直ぐに、夫妻を見つめていた。キラキラと、未来に向かって輝いていた。


「それと、もうひとつ。これは高校一年生の娘から、貴方への贈り物」


そして今度は、金石の母から葉月へ、古びた紙袋が手渡される。


「美空ったらね、自分が車にはねられたのに、自分じゃなくて、その袋を守っていたのよ。大切に、抱き締めていたの」


ふふふ、とどこか寂しそうに笑う夫人につきん、と心臓を痛めながら、葉月はそっと紙袋から中身を取り出す。


「……っ!金石の……アホ!こんなもん、大事に守ってんなよ!自分、守れよ……っ!」


堪らず、ずっと我慢し続けていた涙が、ぶわぁ、と川か嵐で決壊した時のように、葉月の瞳からばたばたと落ちた。


紙袋の中身は、初めてデートした時に葉月が欲しがった、あの、エアジョーダンのパーカーだったのだ。


「かなっ……金石!パーカーなんて要らない!いらっ要らないからっ!俺は、お前が、お前がいればそれで……うあ、あぁぁぁ!」


パーカーとロケットを抱き締めて、壊れたように泣く葉月に、夫妻も、我慢の限界が訪れ、静かに泣き始めた。


どれだけ泣いても、どれだけ焦がれても、彼女へはもう、会うことは出来ない。


だからせめて、今だけでも……と、葉月は、塞き止めていた想いの全てを、涙で形として、落としていった。
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