【完】籠球ロマンティック



集中力の無い律子は、いつもの針の穴に糸を通すような精密なパスが出来ていない。


「リッコ!」


挙げられた二つの手。前方にいる恋夜が叫んだのと、静かに挙げる、左後方の葉月の手。


律子は恋夜に視線を向けたまま、左足を上げて股の間から葉月目掛けてボールを送る。


しかし、それは狙ったところと違うポイントでバウンドし、葉月には届かない。


「リッコ、もう試合が近いんだぞ?悩みは誰にだってあるから仕方無いかもしれないけど、らしくないな」


堪らずやって来た逸人は、可愛い妹の調子を心配し、自分よりもずっと小さな律子の顔を屈んで覗き込んだ。


その、良く似た目と鼻のついた逸人の顔は、妹を本当に心配する兄の顔。


申し訳無さで、律子はぐっと俯き、逸人から視線を外す。
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