チョコホリック【短編】
あたしは顔を上げて、市橋くんに顔を見せつけた。
「もう、知らない!」
あたしは言い捨てると、急ぎ足でその場を離れた。
アイツはまたついてくると思った。
だけど、ちらっと向いた後ろには誰もいなくて、あたしはなんだかイライラした。
だから、すぐそばの女子トイレに駆け込んで、勢いよく顔を洗った。
気分を変えたかったんだ。
そして、顔をあげて、鏡に映った自分を見た。
左手で目の下を触れる。
そこにはホクロがあった。
いわゆる、泣きボクロってやつ。
あたしはそれが大嫌いだ。
市橋みたいに、泣いても悲しくもないのに、「泣いてるの?」なんて言われるから。
これが嫌いになったきっかけは、小学校のときにクラスメートだった男子。
もう名前も顔も覚えてないけれど、あたしの顔を見る度に「泣いてる?」と訊いてきた。
もちろん、泣いてなんかいなかった。