チョコホリック【短編】
何を心配されているのか、ようやく理解したあたしは何度もうなずいた。
そっか。
マスクイコール風邪やインフルエンザの菌やウイルスを他人にうつさないためのもの、だもんね。
先生はあたしが甘い匂いが吐くほどダメだって知らないんだから、当然か。
「ふーん、体調が悪いねえ」
本当のことを知っている市橋くんが、口元をゆるめた。
それに対し、キッと睨み返す。
コイツは何回睨ませれば気が済むんだ。
あたしは実習室の隅にある冷蔵庫へ向かって、今日の朝に入れた生クリームを取り出した。
調理実習では材料を生徒が各自で持ち寄る。
だけど、たった二人での実習だと一人あたりの負担が大きすぎるから、特別にチョコレートは小倉先生が用意してくれた。
市橋くんはチョコレートに混ぜるお菓子用の洋酒だ。
材料をテーブルに並べると、実習用に授業で作った青いエプロンをした。
「よし、じゃあ、早速作るぞ。作り方はわかるな?」
「あ、はい」