チョコホリック【短編】
小倉先生に言われて、慌ててかばんの元へ駆け寄り、ノートを取り出した。
嫌いなお菓子作りなんて詳しくもなければ、授業もちゃんと訊いてなかった。
だけど、テストのときに困るからと、板書だけはきちんとノートに取っていた。
今日はそんな自分に感謝だ。
ノートを開き、実習テーブルの隅に置いて、覗きこんだ。
「ええと、まず、チョコレートを削るんですね?」
マスク越しの声がこもる。
「そうだ。芹沢、次の実習からは前もってノート見て、作り方覚えておけよ」
あたしは「はーい」と愛想よく返事しながらも、心のなかでは、『お菓子作りじゃなければね』と悪態をついていた。
まな板の上に、チョコレートのかたまりを置いて、包丁で薄くそぎ削る。
マスクで鼻まで覆っていても匂いが鼻をつくんじゃないかと心配していたけど、わりと平気だ。
やがて、すべて削り終え、手についたチョコレートを洗い流した。
視界の端では、市橋が片手鍋を取り出すところが映り、あたしも真似をした。