チョコホリック【短編】
その間、先生はあたしの左横に立って作業を見ていて、心臓が壊れるかと思った。
自意識過剰だってわかっているけど、手元ではなくて、顔を見られているような気がして、ずっと俯いてた。
先生を見ることが怖かった。
見られているって認識するよりも、見られてなんかいないとわかってしまうほうが、ずっと怖かった。
湯が沸騰したので火から下ろし、チョコの入ったボールを鍋にあてる。
そこまでやってから、温度計を用意していないことに気づいた。
バカ。
自分に手順の悪さに呆れちゃうよ。
あたしはテーブルの下の引き出しを適当に開けてみた。
なかにあるのは、さいばしと計量スプーン、そして、なにやら黄色の細長くて筒状のケース。
その隣を開ける。
スプーンとフォーク、ナイフが並んでいた。
「市橋くん、温度計ってどこにあった?」
声が震えないように、言う。
隣に先生がいるかと思うと、市橋くんに話しかけることもひと苦労だ。