チョコホリック【短編】
「はあ、ショックだな。世代の差を感じるよ」
「先生、仕方ないですよ。電子体温計のほうが扱いやすいし、最近は水銀の体温計なんてない家庭も多いと思いますよ。俺も、昔、小学校の保健室で見ただけですし」
「だよなぁ。考えてみたら、もう俺の家にもあるか怪しいしな。ああ、でも、俺の子供の頃は、体温計といえば水銀だったのに」
先生は頭をガックリと垂らしながら、ぶつぶつと言っていた。
「そんな体温計があったんなら、一度見てみた……ああ!!」
ふと手元のチョコレートを見て、叫んだ。
すぐに、ボールを鍋から離し、木べらでかきまぜる。
やばい、チョコレートのこと、すっかり忘れてたよ。
「先生、温度計貸してください」
「ああ、はい」
手を差し出すと、すぐにその上にむき出しの温度計が置かれる。
先生の手がかすかに触れて、胸がひとつ鳴った。
平常を装いながら、温度計を持ち直した。
これをチョコレートの中に突っ込めばいいんだよね。