チョコホリック【短編】
すぐ側に先生の目があって、ドキンとした。
「や、やり直し?」
ただでさえ、マスク越しでくぐもっているというのに、問いかける言葉がどもる。
「そう、もう一度40度まで温めて」
「……はーい」
頭をがっくりと下げた。
チョコ作りって、溶かして固めて終わりかと思いきや、意外とめんどくさいのね。
そうして、もう一度テンパリング作業をはじめからやって、市橋くんより10分遅れでチョコトリュフが出来上がった。
「うん、二人ともうまく出来てるよ」
先生があたしと市橋くんのトリュフを一粒ずつ食べて、言った。
ようやく嫌いなお菓子作りから解放されると、胸をなでおろした。
チョコレートはとても食べる気しないから、市橋くんに押しつけるか、持って帰って家族に食べてもらうかしよう。
そんなことを考えていると、先生が教卓のなかから、なにやらビニール袋を取り出してきた。
それは透明地にピンクの花模様で、どう見てもラッピング用の袋だ。