チョコホリック【短編】
昼時には同じように弁当を持参している人が、ベンチのみにとどまらず、付近の木陰の下に座りこんでいる人もいるくらいだ。
だけど、放課後――しかも、学校が終わってから一時間ほど経っていて、学校に残っているのは部活の生徒ばかりというような時間――の今は、他の姿は見えない。
どんな話かわからないけど、人に聞かれたくない話をするにはうってつけだ。
「……話って何?」
ここに来るまでに少し落ち着いたとはいえ、さっきまで泣いていた自分を悟られたくなくて、早く話を終わらしたいと思って、うつむいたまま尋ねた。
「こっち見て」
言われて、とっさに顔を上げそうになったけど、今の顔を見せるわけにはいかないと思いなおして、もう一度、頭を下げた。
すると、信じられないことに、あたしの左頬からあごにかけて、手が添えられ、息をのんだ。
たしかにあごを掴まれているのに、伸ばした指の先が耳に届いている。
その手の大きさに、驚いた。
――男だ。
あたり前のはずなのに、あらためて認識した。