チョコホリック【短編】

今まで誰かと付き合ったことはなくて、好きな人と言ってもただ見ているだけ。


相手が教師だったんだからしかたないんだろうけど、ろくに触れあったこともなくて、初めて、男と女の違いを理解したのかもしれない。


影がかかり、少し顔を上げると、目の前には市橋くんの細い目が飛び込んできた。


背中から頭にかけて、震えが走った。


二人きり。


未だかつてないほどの近い距離。


何か予感を感じて、胸が騒ぐ。


「芹沢」


呼ばれて、ひやっと驚いて、一瞬、目をつぶった。


市橋くんの唇が動いたとき、息が顔にかかったからだ。


息がどのくらいの距離まで届くものか知らないけど、きっと、ペンケースのなかに入れている物差しで測れそうなほど、近くにいる。


もう、何がなんだかわからない。


なんでこんなことになっているの?


よりによって、苦手な市橋くんと。

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