チョコホリック【短編】
離れてほしいと思うのに、体が石になったみたいに重くて、動かせない。
「あ、あの、市橋くん?」
顔は動かせないから、目だけ上向けて、ななめ上にある彼を見た。
目があう。
その眼差しが熱い。
「受け取ってほしいんだ」
市橋くんはそう言うと、手を離して、反対の手に握っていた袋を持ち直して差し出した。
それは見覚えのあるもの。
あたしが持ったままの、チョコの入った袋と同じものだ。
実習で作ったチョコをどうしてあたしに渡そうとするのか、その意図がわからず、彼を見返した。
「今日はバレンタインだ。俺からっていうのは普通と逆だけど、芹沢が好きなんだ。もらってくれないか?」
「は?」
告白することはあっても、されることなんて一生ないんじゃないか。
そんなふうに思っていたあたしは間抜けな声を出した。
「芹沢が俺を好きじゃないのは知ってる。でも、もらってくれないか?」