チョコホリック【短編】

「……知ってる」


「へ?」


すっかり市橋くんの表情に気を取られていたあたしは、何の話をしている最中なのか見失っていた。


「でも、このチョコなら絶対に食べれると思うんだ。一粒でもいい。受け取ってくれないか?」


「え、なんで知ってるの?」


チョコと聞いて、ようやく話を思い出し、ずれた返事をしてしまった。


だって、さっきの知ってるは、あたしが甘いもの嫌いって知ってるってことだよね?


なんで?


「見てたらわかるよ。友達がお菓子差し出しても、絶対に受け取らないし、それだけじゃなく、さりげなくその場を離れたりするだろ」


「う、うん」


うなずいた拍子に、顔を下げる。

いったい、どれほど自分を見てくれていたのかと考えると、すっごく恥ずかしくて、市橋くんをまともに見ていられない。


あたしは正面を向いたまま、地面を見る。


横からあたしの前に身を乗り出すようにしていた市橋くんが視界から消え、隣に座っている彼も姿勢を正したらしいとわかった。

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