チョコホリック【短編】
「ちょっと待ってよ。一緒に帰ろうよ」
「帰らない」
間髪入れずに断る。
「なんで?」
市橋くんはたやすくあたしの前に先回りをしてきた。
それがむかつく。
あたしは彼を置いてきぼりにするつもりで、精いっぱい歩いているのに。
「なんででも」
「もしかして、泣いてる?」
「泣いてなんかない!」
思わず、隠していた顔をさらけ出すように、振り向いてしまった。
「うん、みたいだね」
笑う市橋の顔を見て、ますます不愉快になる。
この男は、あたしをイライラさせることがとても上手い。
思えば、4月の初めに転校してきたときからだ。
ようやく教室にたどり着いて、扉に手をかけた。
「待ってよ。今は入らないほうがいいから、このまま帰ろうよ」