チョコホリック【短編】
「いやだよ。それにしても、ここまで甘い匂いが苦手だと大変だね」
あたしは横目で彼を睨んだ。
「……あなたって、あたしのことはなんでも知ってるのね」
意識して、低く冷たい声を出す。
確かに、あたしは甘いものが苦手で、今開けたドアの先では調理実習の戦利品の香りが立ち込めていた。
『もうすぐバレンタインだから』という嬉しくない小倉先生の気遣いのおかげで、クラスメートは調理実習でチョコレートを作り、放課後になった今、それをみんなで食べているようだった。
「なんでもは言いすぎだよ。だって、オレはどうしてキミが甘いものを嫌っているか知らないからね」
あたしの態度なんて気にもとめない様子で、彼はにっこりと笑った。
ああ、もう! その余裕しゃくしゃくの態度がむかつくのよ!!
「あんたに理由は教えない! どうせ言ったって、笑われるだけなんだから」
「ひどいな、笑ったりしないよ」