イジワル上司に恋をして

「……せめて……せめて、結婚式の招待状は欲しいよぅ……」


半べそで縋りつくような視線を向けると、由美は「はぁ?」っと眉間に皺をつくった。


「なの花……あんたの想像、いや、妄想? は、どんなことになってんの……」
「だってぇ……そ、そんな相手いるなんてひとことも……」
「そりゃそうでしょ。昨日の話だもの」
「……は?」


「昨日」? 昨日のことってどういうこと? ん? 待て待て。全っ然、わかんないんですけど!


「なの花。口、開いてるって」


眉尻を下げて可笑しそうにわたしを見て、由美は笑った。


なんでも、相手は職場の人で、付き合ってはいなかったけれど、よく声を掛けてくれていた人らしく。
仕事振りとか、食事してるときとか、遊んでるときとか。彼を知るには充分な時間があって。
自然と隣にいることができて、自分も素でいられる相手だ、と感じた由美は、好きだったらしい。


「まさか、『付き合おう』とかじゃなくて、『結婚しよう』だとは……」
「だけど、由美は迷わなかったんでしょ?」
「んー。そうね。そういうのもアリかなー、なんて」
「へぇ……」


もし。もしも、わたしが、突然に「結婚しよう」なんて言われたら?

職場の人で、普段からよく話もして、好きな食べ物とか好きな歌とか、休みの日の過ごし方とか、自然とインプットされてる相手で。

きっと、お互いに“気が合う”関係性を感じてて。

職場にいるのも、仕事帰りにご飯にいくのも、たまに休みが一緒の日に出掛けたりするのも、普通になっていってて。
そんな状態なら、わたしは絶対、その人に好意を持ってるはず。
そして、きっとその人も私に好意を持っていて――……。

『結婚……しちゃうか?』



みたいな、なんかのノリで言われたもんなら!
たぶん、いや、絶対! その場のわたしなら、「うん」って答えちゃうんだろうな!!


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