イジワル上司に恋をして

「“人気引き菓子の試食会”!! すごくいいアイデアだと思う!」
「あっ……」


そ、それか!

冷房がまだ効いてるはずの店内なのに、一瞬で汗が噴き出そうになっちゃったよ。
わたしの前の黒川と、香耶さんの前のアイツは天と地の差だから、どういう話をして、どういう話をしないのかっていうさじ加減が掴めないから。

ホッと胸を撫で下ろしながら控えめな態度をしていると、香耶さんの奥からヤツがこっちに来るのが見えた。


「仲江。許可大丈夫だったか?」
「あ、黒川くん! ええ、もちろん。黒川くんが言った通り、製造元の方は二つ返事で『いい』って言ってくれたわ」
「そりゃーそうだろうな。ウチが買い取ったものなわけで、協賛っていうカタチじゃないんだから」
「……だけど、今回は本当に――」


わたしに背を向け、背筋を伸ばして真面目な声色で言いかけた香耶さん。

ああ、きっと謝るんだな。割り切ったように元気でいるけど、香耶さんも相当気にしてるし、参ってるんだ。
じゃなきゃ、わざわざ正社員でもないわたしのとこに来て、深々と頭下げたりなんかしないよ。


「もういいから」


柔らかい表情と、それに似つかわしく優しく肩に触れた手。
目を僅かに細め、口角を上品に上げて。


「謝る(この)時間が勿体ないだろ……?」
「……はい」
「賞味期限は待ってくれないしな」
「片付け終えたらすぐに、ホームページ弄りますね」

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