イジワル上司に恋をして

「突然決めた試食会のわりに、結構来てますよーお客さん。ブライダルの社員さんも、一人につき何組も受け持って案内してるから……」
「うん。ドリンクの量でわかる」
「……でもなんか。鈴原さん、ちょっと楽しそう?」
「え? そう……?」


なんて言ったけど、ほんとは結構楽しんでる。
手際良く、優先順位を考えながら。沸騰したお湯を少し冷ましている間に、牛乳に茶葉を入れたり。蒸らしてる間に、レモンティーのレモンを切ったり。

コツを掴めば、なんとかそれなりのスピードで提供できてて、なんかそれが充実感。


「あ! すみません、あたし呼ばれたんでまたショップに戻ります!」
「あ、うん。頑張って」
「鈴原さんも!」


ガヤガヤと、賑わう声が聞こえてくる。
平日でも、実際はこんなにお客さんはこれるものなんだなぁと思ったりして。

そうだよね。わたしたちと同じような、接客業の人だっているわけなんだから、そうしたら今日みたいな平日の方がよかったりするよね!


「よし!」


さっき頼まれたドリンクを作り終えて、提供しにいこうとしたときだ。


「あーっ!! ……ぶ、なかった……!」


行く道を阻むかのように、黒い塊が、ドン! と目の前にあって、危うくトレーのドリンクがパァになるところだったじゃない!

そして、その正体は、顔を見るまでもないわ!

< 104 / 372 >

この作品をシェア

pagetop