イジワル上司に恋をして
「ちょっと! 危ないじゃないですか!」
「オマエが下ばっか見てっからだろ」
腕組みして、棘のある言い方をする、上司黒川。
ていうか、こんなに忙しそうにしてるのが、目に見えてわかるんだから、ちょっとは労いの言葉でも掛けられないのかなぁ!
忙しいときは、テンションも若干ハイになり気味。
だから、いつもとは違って、つい無意識に強気な口調になってしまっていて。
ツン、とそっぽを向くと、黒川を無視して嫌味なくらい大げさに避けて歩き、サロンへとドリンクを運んだ。
そして、なんとか手持ちのオーダーを終えて、ホッとして休憩室に戻ったら――。
「……げ」
すっかり忘れてた。この短時間で忘れるくらいのやり切った感だったんだな、わたし。
なんか昔、居酒屋でバイトしてたときを思い出して、楽しんでたんだなぁ……って、それは今置いといて。
「ずいぶんな態度だなぁ……?」
腕組みした指をトントンと動かされ、真顔で言われると、さすがのハイなわたしも萎縮してしまう。
「き、気のせいじゃないですかー」
超棒読み。こんな言い方したら、コイツのことだから倍返しされるって!
と、心で自分に指摘するも、後の祭り。
仕方なく怒られてやるか、と諦めたわたしは、視線を床に落としながら黒川の出方を待った。
「オイ。オマエ、休憩は?」
「は……? いえ。まだですけど……」
だって、香耶さんたちもお昼抜きでやってるんだもん。わたしだけ呑気に休んでなんかいられないよ。
「じゃあ今のうちに休憩とれよ」
「えっ」
「なに」
「や……その。またいつピーク来るかわかんないですし、とりあえずそこの洗い場とか、全部元に戻して、次に備えたいんですけど……」