イジワル上司に恋をして

……はっ! つ、つい、普通に言い返してしまった!

難しい顔をしてる黒川をみて、『しまった!』と青ざめる。
間違ったことは言ってないし、仕事を優先した発言だから、堂々としてればいいんだ! と思っても、なかなかこの男を前にして強気ではいられず。


「あー……その、香耶さんたちも休んでないですし。美優ちゃんもまだですし……」


目を泳がせながら、付け加えるような言い訳を口にする。
するとヤツは一度事務所の方へ戻って行った。

……な、なに?
急に、しかもなにも言わないで立ち去るって、アイツがそんな行動するなんて!
意味不明……。


呆然と、事務所の方を見やっていると、カツッと足音が聞こえた。だんだんと近づくその音は、ヤツが一歩ずつわたしに向かってきた音だ。


ななな、なに……?!

戻ってきた黒川が、ぬっと手をわたしに伸ばしてきた。
なにも言わず、眉ひとつ動かさず。

全身硬直して、目の前に突き出されたままの握った手を見る。

うわ。コイツ、手のラインまで綺麗。顔もよけりゃ、スタイルもいいし、そりゃあ手だって綺麗なんだろうけども。
しかも仕事も出来て? 女にもモテて?
……なんか、ちょっとムカついてきた。


「さっさと口開けろよ」
「はっ?!」
「こじ開けるか?」
「なっ……!」


ピクリと片眉を僅かに上げて、突然なにを言うかと思えば……!
「口開けろ」ってなんなのよ。そんな恐ろしい命令、素直に聞き入れられるわけないじゃない!

だけど、コイツなら本当にこじ開けてきそうで怖すぎる。


「……なんでですか」


恐る恐る、疑いの眼差しを向けて聞いてみる。不可解な行動と言動に、警戒心丸出しで。

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