イジワル上司に恋をして

「黒川くんが言ってたんだから間違いないよ。それに、黒川くんも……」
「?」
「ううん、なんでもない。今日はほんと、お疲れさま」


「それに」アイツが、なんだって……?
なんか、ものすごーく気になる言い方と、気になる人物の名前が……。いや、でも深追いしない方がいい? だって、出てきた名前はアイツなわけだし。
うん、そうだ。忘れよう。いいことなんか、ひとっつもないよ。


パタパタと、まだ後片付けが残っているっぽい香耶さんは、なにやら言いかけてそそくさと向こうに行ってしまった。


はぁ。それにしても、疲れたなぁ。

ショップを閉めて、美優ちゃんが先に上がったあと、休憩室でぼんやりと今日を振り返る。
すると、カバンの中の携帯が振動した。

脱力したまま画面を見ると、そこには【西嶋さん】の文字。
慌ててシャキッと背筋を伸ばし、スワイプして声のトーンをひとつあげる。


「はっ! はい!」


あ! ちょっと不自然なくらい声張っちゃった……!


『……ぷっ』
「あ、あのあのっ」


わ、笑ってる。たぶん気合い入れて電話出たからだ! うわ、すごい恥ずかしいよー!

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