イジワル上司に恋をして
「……明日、7時出勤」
「し、7時……?!」
なにそれ! 今まで8時はあっても7時なんて時間、一度もありませんけど! 新手の嫌がらせか!
心で散々突っ込むと、しれっとした顔でわたしを見下ろし、付け加える。
「何度も言うけど、時間厳守。寝坊して、デートが理由とか笑わせんなよ?」
「……! そ、そんなこと絶対言いませんっ」
「夜遊びはほどほどにな、お子様」
余計なお世話だってーの!
夜遊びだなんて。夜遊び、だなんて……。
その言葉の先の、オトナの想像までしてしまって、頭からぼんっと湯気が出た。
なななな、なにを考えてるの、わたし! 大した経験もないくせに!
大体、べつに西嶋さんとは恋人同士なわけでもなければ、そういう対象で見られているのかも怪しいくらいだし!
ていうか、こんなこと考えるなんて、わたしって――。
「欲求不満かよ」
「!!」
口になんか出してないのに、頭で考えてた先の言葉を言われてびっくりする。
なんでいつも。黒川という男はわたしの考えてることがわかるんだ。
それがなんだか、黒川の方が優位に立っている感じがして。反対に、敗者のような気持ちに似てるものも感じつつ。
気まずい空気の中、早くこの場から立ち去ろうと、今度こそドアノブを握った。
「忘れるなよ。7時。俺を待たせでもしたら、当然、この前みたいなモンじゃすまないからな」
ドアを開いた直後に背中にそう投げ掛けられたわたしは、振り向きはしないものの、ピタリと足を止めて答える。
「……7時でも6時でも、遅刻しないで来ますよ」
言い逃げするように、そのあとの黒川の反応なんて待たないで、足早に休憩室をあとにした。