イジワル上司に恋をして
いや、そもそも『だめ』とか以前に、私に女性を感じた上でのそういう目的じゃないだろうし。
でも、そうじゃなくても、もう二度と誘われたりはしない……かな。
あーあ。私のときめき補充。生活エネルギーの糧。
憧れの西嶋さんとのデートが普通に過ごせていたら、しばらくはそのことだけで、仕事だって頑張れちゃいそうなのになぁ。
まして最近は、アイツがいるし。
エネルギーを蓄えておかねば、すぐにやられる毎日だし。
アイツに……こんな私の醜態を知られたら……。
ぶるりと身を震わせ、悪寒のようなものが全身を巡る。
「いいよ。行こう」
「ふへ?」
「そーいうお店。鈴原さんが知ってるってことでしょ? 案内してくれる?」
「はっ……はい! 喜んで!」
「ぷっ。すでに居酒屋店員みたい」
……なんか、なにを口にしても笑われる気がする。
がっくりと、自分の女子力と柔軟性のなさに肩を落とすと、西嶋さんが不思議そうな目でわたしを見る。
「どうしたの? やっぱり仕事後は疲れてた?」
「……いえ。そうじゃないんです」
「なんか、ヘンなこと言っちゃった? 俺」
「いえいえ! そーではないので! ご心配なくっ」
全力で、西嶋さんのせいだなんて違うってことを否定すると、「うん、わかったよ」ってすぐに理解してくれたけど……。なんか、慣れないことってすごく気を張っちゃう。
でも、きっとそれがフツーのはずだし、そのうち慣れていくよね。うん。
そんなことを考えてたら、たった少しの距離を一緒に歩くだけでもものすごい疲労感で。
もしかしたら、気付いてなかったけど、『右手と右足同時に出してたかも』とまで考えてしまうくらいに頭が真っ白だったわたし。
でも、ちゃんと目的地には辿り着いていて、わたしはこっそり安堵の息を吐いていた。