イジワル上司に恋をして

「鈴原さんって、大学の頃から〝癒やし〟だよね」
「はっ……?」


こじんまりとした居酒屋で、カウンターに並んで座ったわたしたち。
見回せば、平日だからか満席までには至らず。埋まっている席を見れば、さっき自分が言った通り、今のところ100%おじさんだ。

それはいいとして。
一杯目のお酒に口をつけるや否や、西嶋さんが不思議なことをいうもんだから、わたしはビールを飲まずに口を離した。


「あ。知らなかった? 結構そんな話題出てたんだよ」


しっ……知らない。全然そんなこと。
大体、癒やしと言うよりは、間抜けに近かった気がするんですけど……。

カウンターに置いたジョッキを見つめながら、当時の自分を思い出す。

……いや。なんら今と変わらないし、なんなら、今よりも妄想癖が強かったかも。そう思ったら、キモチワルイよ、わたし。

つい最近の過去の自分を思い出して青ざめてると、西嶋さんが、ひょいっとわたしの顔を覗きこむようにした。


「きっと、今の職場でもそんな位置づけだったり?」
「え?! や! んー……それは、ナイ……と、思うのですが」


今の職場で? わたしが癒やし?
いやいや! それを言うなら、香耶さんでしょう!! あの、仕事がデキルのにもかかわらず、ほんわかしたオーラを出してる香耶さんって、本当の癒やし系女子だと思う。

そこいくと、わたし?
わたしは特になんの取り柄もない、ただのお茶出し……。

『〝癒やし〟だぁ? っは! 寝言は寝て言え』

――――はっ! い、言われたこともないのに、脳内で黒川のヤロウが私に毒を吐いてやがる……!

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