イジワル上司に恋をして

自分で勝手にアイツを脳内で召喚したのに、それが腹立たしくて、ぶんぶんと頭を横に振ってヤツを追い出そうとする。
想像の中でも、アイツは簡単にわたしの言うことなんか聞いてくれなくて、頭の中から立ち去らない。仕方なく、頭の隅の方に押しやると、「ふー」っと鼻息を荒くして息をついた。


「……なんか、悩み事?」


現実に引き戻されたその声に、ハッと視界に入る西嶋さんに焦点を合わせる。のけ反るようにびっくりすると、彼はまんまるい目をしてわたしを見た。

――うわ……大失態……。

会ってから、ヘンなとこしか見られてない。そんな自分に心の中で失笑して、項垂れる。
そのわたしの様子を、なにか勘違いしてしまった西嶋さんは、とても親身になるように声を掛けてくれて。


「聞くことしか出来ないことかもしれないけど、それでもよければ聞くよ?」


少し小首を傾げ、くっきりとした二重の瞳をわたしに向ける。
黒川とは違うタイプの、目鼻立ちの良さ。黒川は大人フェロモンがすごいけど、西嶋さんは、どこかのアイドルグループに属しそうな優しい感じ。

柔らかな雰囲気と、犬のような愛くるしい瞳で言われてしまうと、なんだか否定するタイミングを失ってしまう。


「――あ……いえ。悩みっていうようなほどのことは……」
「職場のこと?」
「い、や――――……」


『最近異動してきた、腹黒上司の黒川っていう男が、食えないヤツなんです』……なんて、言えるかっ!


「なんでも――」
「職場の先輩とか、上司とかの問題?」

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