イジワル上司に恋をして
一瞬、真面目な悩みを頭に思い浮かべたけど、すぐに作り笑い全開でごまかそうとした。なのに、偶然にも西嶋さんの言うことが結構アタリで、思わず反応が遅れてしまう。
こんな間を作っちゃったら、もうごまかしようがないじゃん……! なにやってんの、わたし!
自分を叱咤したところで、目の前の西嶋さんとの話を巻き戻せるわけもなく。
結局、当たり障りのない程度に、慎重に考えながら口を開いた。
「あー……いや。そんな深刻なことじゃなくてですね……最近来た上司がなかなか厳しいというか、なんというか……」
ごにょごにょと、語尾は濁すようにぼかす。
ちらりと西嶋さんを見て見ると、思いの外真剣に話を聞いてくれてる分、なんだか余計に胸が痛い。
まぁでも。まるっきりの嘘ではないわけだし。別に、なにかをどうにかしてとかいう話でもないし。ただ聞いてくれるだけってことなわけだから。
念を押すように、自分で言い聞かせると、西嶋さんと目が合った。
「それって、この間の人だよね?」
「えっ」
「この前おれが行ったときに挨拶した、あのイケメン上司」
〝イケメン〟……。そういう言い方に当てはまりはするんだけど、悔しくてそこに賛同出来ずにいたわたしは、バカみたいに正直に顔に出す。
「……まさか、パワハラとかされてるの? いや……セクハラ――――?」
怪訝そうな顔をして、西嶋さんがびっくりするようなことを口にするから、『これ以上はマズイ』と笑顔を作る。
手をぶんぶんと振り、敢えて明るい声で否定した。
「まさか! 大体、セクハラなんて、わたしになんかしないですって!」
思い切りキスされましたけどねっ!
自嘲気味に心で皮肉混じりに付け足す。ついでに付け足せば、明日は意味不明に7時出勤だそうで! あれ? これって立派なパワハラなんじゃ。
笑顔の裏で毒づいていると、わたしの演技力が乏しかったのか、西嶋さんはまだ浮かない顔をしていて。