イジワル上司に恋をして
そんなタイミングに、頭上で聞こえた声に反応して、ガバッと体を起こした。
瞬間、わたしの頭に衝撃と、腕に冷たい感覚。パリン、という目を細めたくなるような音。
「も、申し訳ございません! お怪我はっ……」
その音と、声と、光景に、サ―っと酔いが醒めて行く。
「……大丈夫です」
「すぐに片付けますので! 少々お待ちを!」
慌てる店員に抑揚のない返答が、隣から聞こえた。
ばたばたとカウンターの奥に消えて行った店員を見て、状況を整理する。
たぶん…………あの店員が、わたしに気遣って声を掛けてくれた相手で。
たぶん……その店員が、わたしに差し出そうと水を手にしていて。
たぶん、わたしのせいで、そのグラスをひっくり返して……。
そうして恐る恐る、一席空けて隣に座る人を見た。
たぶん――じゃなくて、絶対、わたしに怒ってる……よ、ね?
「あ……の」
目が合ったそのお客は男性で。
ピシッとしたスーツに身を纏ったその人は、そのスーツに劣らない……いや、勝るほどの綺麗な顔で。
だから余計に、その顔で、じっと見られると怖い。
「す、すみませ……」
「――すげぇイタイ奴」
――――は……?