イジワル上司に恋をして
「……本当に? なにもない?」
――ああ、もう。すごい優しいところ、学生のときからだよなぁ。
個人的に声を掛けられたなんてことはないんだけど、いつもサークル内の飲み会とかでも周りを気遣う人だった。
初めはそういうところに人として惹かれて。そういう人柄だから、癒やされて。
だから、頭の中で勝手に彼を登場させて、妄想していたことは否定できないけど、決して邪な気持ちを想像してなんか――。
「それならいいんだけど。でも、もし頼れる人がいないなら、おれに言ってね?」
「は……はい」
困ったように、僅かに眉を寄せて笑う西嶋さん。
そんな彼が、自分の隣にいるなんて、未だに実感湧かないかも……。
わたしは照れ隠しのように、ビールを煽る。
それから、西嶋さんの上手い話術に助けられて、緊張しながらもなんとか会話を繋いでいって。
好きな食べ物とか、大学のときの話とか、友達の話とか。
仕事の話では、うちのホテルとも少し関係あるような仕事をしてるって聞いた。
航空会社の子会社みたいな感じで、空港でもよく目にするお店も西嶋さんの会社だった。
「え? じゃあ、うちにも営業に来たりするんですか?」
「おれはまだ行ったことないけどね。でも、諸に〝お客様〟だよ。しかも、受け入れてくれれば、鈴原さんがいるショップにも並べてくれることになるじゃないのかなー」
「えぇ! そういうことですか? わーなんか不思議です」
だんだんと、緊張も薄れてきて。それは、西嶋さんの話術というか、そういう気遣いみたいなもののおかげなんだろうけど。
お互いの仕事の話や昔話。そういう何気ない話をしては笑って。
……でも、時折わたしの頭の中で、あの悪魔はやっぱり、にょきっと顔を出してきたりした。