イジワル上司に恋をして
「あ。そっか。明日、早いって言ってたっけ」
一瞬困った顔をしてしまったのを運悪く見られたわたしは、西嶋さんから言われてしまう。
「す、すみません……本当に」
「……いや。じゃあ駅まで送るよ」
「えっ? あ、そんな!いいですいいです!」
こんなときは、素直に甘えればなにかしら発展の可能性があるような想像をしてるくせに。まったく、我ながら活かされない想像生活だ。
全力で否定するなんて、いくらなんでも失礼じゃない。
張った声を出した後に、そんなふうに後悔する。
だけど、彼はわたしの想像なんか遥かに飛び越えて――。
「最近、いろんな事件もあるし。本当は家まで送りたいけど、それはそれで問題あるでしょ?だから、せめて駅まで。ね?」
そうして、結局西嶋さんの言うとおりに、送ってもらったわたし。
西嶋さんは、地下鉄じゃなくてJRだというのを道中聞いて謝ったけど、「送るのは普通でしょ」と、当然のように言った。
足元がふわふわとしてたのは、酔ってるからだけじゃなかったりして……?
こんなふうに優しくされることなんて、現実にそうそうないから。
普段、接する男の人なんて…………黒川くらいだし。
アイツが優しいなんてこと――……。
そこまで考えたときに、あのカカオの香りを思い出す。
……いや! いやいや! あれは……そう! もしかしたら消費期限間近だったとか、余り物とか! とにかく、処分したくて、それを口に放り込んできたんだ、きっと。
そう。大体、ヤツの優しさには裏があるはずだもん。
前にもあったことだし! わたしが足を怪我したときのこと!
表向き、天使のように振る舞っておいて、二人きりになった途端、悪魔の顔を見せるんだから。
……でも、香耶さんの担当婚礼に呼び出したり、お茶出しでの評価がいいような話をしたり……。あれ?
だんだんと、自分がなにを考えてるのかわからなくなってると、いつの間にか駅に着いていた。