イジワル上司に恋をして

「あ……着きましたね。本当、わざわざすみません」


わたしったら、なんて勿体ないことを……!
憧れの西嶋さんと並んで歩けてたっていうのに、頭ん中ではあろうことかアイツのことを考えてただなんて!

今この場にわたししかいないのなら、思う存分、自分の頭をポカスカ叩きたい。


「……また、誘ってもいい?」
「へ?!」


別れ際に、まさかのセリフ。
しかも、社交辞令とかそういう雰囲気でもない気がする。

「また」? そんな、また、だなんて、いいの?
ていうか、回数重ねるごとに、失望されて行きそうな恐怖感と緊張感が……。
でもでも。こんな、せっかくの好機!


「は、はい……ぜひ……あ?」
「?」


不思議そうな顔でわたしを見ていた西嶋さん。だけど、わたしの視線は、目の前の西嶋さんじゃなくて、少し向こうから歩いてくる男に向いていた。

そのわたしの視線に勘付いてしまったからか……。
男は不意に顔をあげると、一瞬驚いた目をわたしに向ける。
次の瞬間、絶対に不敵な笑みでも浮かべるのだろう――そう、思ったのに。


「……誰か、いた?」


西嶋さんが、わたしにそう聞いて、視線の先を探るように頭を回した。

いつもなら。いつもだったら、西嶋さんはアイツと面識が一応あるし、慌てて話し逸らして、場所を変えたりしたかもしれない。

だけど、それが出来なかったのは……。


「あれ? あの人って、鈴原さんの……」


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