イジワル上司に恋をして

「どうせ方向一緒ですし。……あ、なにか心配してますか? 私が送り狼にならないか、とか」
「い、いえ。そんなことは……」
「さすがに明日も、明後日も顔を合わす部下に、変なこと出来ませんよ」


冗談混じりにニコリと笑う黒川。それを、困ったように見つめて戸惑う西嶋さん。

……戸惑って当然だよ!
べつにただの後輩で、友達というカテゴリーにもなってるのかわからないわたしに対して、そんなこと言われたって反応に困るのがフツーだって!

つーか! なぜ、アンタがわたしを送るとか言っちゃってんの?! どーせなんか企んでるんでしょーよ!


「それじゃ……失礼します」


わたしが完全にパニック状態になってると、黒川が西嶋さんに挨拶をし、長い足を駅へと向けた。
数歩歩いたところで、くるりと振り返る。


「鈴原」


たったひとこと、名前を呼んだだけなのに。
なに、この威圧感。

有無を言わさないような呼び声に、わたしだけでなく、西嶋さんも固まってる。

吸い込まれるような、ヤツの黒い目に負けて、わたしは仕方なく歩き出した。


「あっ……あの! なんか、すみません……ご、ごちそうさまでした!」


後ろに黒川が見てるというプレッシャーの中、ようやく口にできた挨拶はその程度。
それを受けた西嶋さんも、ようやく動き出して……。


「あ、いや……。気をつけて」


そうして、まさかの展開で、憧れの人とのデートに幕が降りた。

っで!
まさか、コイツとの時間がまたくるとは……!

そう思って、少し先を行くヤツの背中を怨念込めて睨んでみる。
わたしのただならぬオーラに気づいたのか、黒川はピタリと足を止め、振り返った。

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