イジワル上司に恋をして

「……オマエ。今、なんか言ったか?」
「……いえ、なにも」


相変わらず、華麗に豹変する黒川の言葉に、内心ヒヤリとしちゃったけど。でも、口には本当に出してないし。嘘は吐いてない。頑張れ、わたし!

息巻いて歩いてたら、先に改札を通った黒川が心なしが歩調を緩めた気がした。
そんな微妙なことに気を取られてると、後ろに人がつっかえてきていて、慌てて横に避けた。そして、ポケットやカバンの中を急いで探る。

改札前で立ち止まるだけでも、ちょっとテンパるのに。よりによって今は、目の前にヤツがいるから。

あわあわと、内心冷や汗をかきながら、なんとかカバンの中から定期を探り当てる。
ピッと改札を抜けると、今まで見ないようにしていた黒川と、うっかり目を合わせてしまう。


「……鈍臭いヤツ」


冷ややかな目と声はいつものこと。
……だけど、なんか違わない? いや、気のせいかな? 意外に酔ってる? わたし。

首を小さく傾げながら、ヤツが立つ場所へと近づいていく。
近付きたくなくても、進行方向にいるわけだし、本当に方向が一緒なわけだから避けようがないんだけど。

立ち止まる黒川の目の前で、ぴたりと足を止める。
そして、目だけ上に向けて、窺うように黒川の顔を見た。


「お茶はそれなりに早いのに、それ以外はダメダメかよ」


そう言って、わたしを見下ろすヤツの目にも、なにかいつもと違うものを感じる。

なんだろう、なんの違和感?
言ってることとかは、いつもとほとんど変わらないとは思う……。じゃあ、なに?
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