イジワル上司に恋をして

まだ、ふわふわとした思考で、遡りながら考えてみる。
思い返せば、初めからおかしかったような……。あの、目が合ったときに、あからさま過ぎるほど目を逸らされた、あの瞬間。

アイツは、どうしてあんなふうにわたしを避けたんだろう?

それに、不可解なことはまだある。
西嶋さんから声を掛けたとはいえ、その流れでわたしを送るとかって自分から言いだしたり。
それも、その場だけの話かと思えば、嫌味を言いながらもこうして立ち止まってくれてたり。

……あれ? そう考えると、さっき会ってから、ヘンなことばっかりじゃない?

次々と、疑問点が浮上する一方で、それが解決するものがいっこもない。
いつしかそんなことに意識を奪われていると、頭上から低い声が降って来る。


「オイ。ちゃんと歩けるんだろうな? 担ぐとか、ゴメンだぞ。恥ずかしい」
「あっ、歩けますっ! ご心配なくっ」


そうかと思えば、いつものコレ。
やっぱ、わたしの考えすぎだ! 飲み過ぎだ!

もう、余計なことは考えない! と、心に決めて、黒川の少し後ろを着いて行くようにホームを歩く。
ちょうど行ってしまったばかりのホームは、平日ということもあって閑散としていた。

仕方なく、ヤツと同じ乗降口付近で立っていると、不意に声が飛んでくる。


「〝言いつけ〟守って、断ったんだ?」
「……べ、べつに、そういうわけじゃ」


まさにその通りなんだけど、それを認めるのがなんかシャクに触るし。
まるで、女子高生がお父さんに言われたことを守ってるみたいじゃない。


「ただ、さすがに疲れもありますし!」

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