イジワル上司に恋をして
「ほら。〝西嶋さん(センパイ)〟待たせてないで、早く仕事終わらせて」
そのにっこりとした顔のまま、わたしにもやさし~くそう言って。
ヤツは、軽く頭を下げると、スッと奥に行ってしまった。
「あ……っ、じゃあ、わたし、すぐ終わらせますから!」
「突然ごめんね。じゃあ、近くで待ってるかな」
ニコッと笑って手を振る西嶋さんに、会釈で返し、わたしはモップを握る手に力を込めた。
そして、目を閉じ、ゆっくり大きく息を吸い込む。
……待って。落ち着いて、自分。
まず、西嶋さんがわざわざまた、ここに来てくれたっていうことは、喜んでいいところよね? うん。
まぁ、理由はなんだか、この前の〝成り行き相談〟絡みみたいだったけど……。
つい今さっきのことを頭でおさらいしながら、モップ掛けを始める。
目線は床だけど、焦点がぼんやりと合っていないまま、続けて考える。
……で、だ。
想定範囲外、の、黒川の登場。アンド、二人の会話。
突っ込みどころ満載だったんだけど、あまりに不可解な点が多すぎて、未だになにがなんだかわからない。
どっちになにを聞けばいいのかさっぱりだ。
目を開け、眉を潜めて手を止める。
西嶋さんの、黒川に対する「気になっていること」ってなんだろう……?
やっぱり、セクハラとかそういうふうに勘違いさせてしまったのかな? だとしたら、それがヤツにばれたらやばすぎる……!
はっ! ていうか、もうすでのそれもお見通しで、だからあんな顔は笑ってても、雰囲気が怖い、みたいな反応してたんじゃ!
これから先、アイツになにをされてしまうのかと、想像するだけで背筋が伸びる。
だって。だって、もう、キスまでされてるんだよ? わたし。しかも、2回も!
あの男、まさか、本当に上司という権力を行使して、如何わしいことをするような人間なんじゃ――――。