イジワル上司に恋をして

「……いや、まさか! ない! ないない!」


思わず耐えきれなくなって、声に出した。
首を横に何度か降って、自分で自分をフォローする。

だって、アイツ、むかつくけどイケメンだよ? っていことは、女の人なんて選べるだろうし、わざわざこんな危険を冒してまで、わたしを選んだりしないって!
……とか言って、〝そういう〟性癖の人だったらどうしよ。


「いやっ!! それはナイだろ!」
「うるせーな、さっきから」


頭上から低い声が降って来て、同時に肩をびくりと大きく上げる。
そしてその肩を竦めたまま、ちらりと視線を上に向ける。


「なにが『ナイ』って?」
「え! うー、あー……と……」
「ま、オマエが考えてるようなことは、どうせ『ナイ』だろうな。ようやくわかったか? 自分の妄想が現実には『ナイ』ってことが」
「それはまた違う話ですからっ!」


恥ずかしさと、少しカチンと来たのとで、つい口が勝手に言い返しちゃったけど……。
でも、どうやら、いつもと変わらない程度の感じ。
さっきの西嶋さんのことで、なにか変わったとは思えない。


「……なにか、用ですか」


とはいえ、西嶋さんのこととか、なんか色々と突っ込まれるような用件だったらどうしよう。

疑心の目で、おどおどと聞いてみる。
黒川は、なんにも変わらず。なんなら、眉ひとつ動かさずに、ひらっと数枚の紙を突き出した。


「ゴールデンウィーク中の、メーカー休業日リスト」


寄り目になりそうなくらいに、顔の真ん前に見せられた、リスト表。
あまりに真っ当な〝用件〟に、拍子抜けしたわたし。


「仲江から、『引き受けてくれた』って聞いたからな。まぁ、まさか断るなんてことするわけないとは思ってたけど。なぁ?」


その、「なぁ?」って聞き方がなんか怖いんですってば!
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