イジワル上司に恋をして

今までも、確かにこういう仲の良さそうなカップルに目を奪われることはあったけど、なんか、今感じてるものとは違う気がする。

だって、今までは、〝想像してればある程度満足〟で。現実は、想像のように甘くないって思ってたから。
でも、今、わたし……なんて考えてた……?


『いいなぁ』
『わたしも彼氏がいたらなぁ』
『そうしたら、あんなふうに自然に触れ合ったり、笑い合ったりしてるのかなぁ』


さらにそのまま、いつものように妄想に拍車がかかれば、赤面してしまうようなところまで考えてしまっていて。


『コドモのキスだな』


瞬時に頭に聞こえたのは、あのとき囁かれたあのセリフ。

自分から人の唇を奪っておいて、あんなことを言われるなんて誰が想像出来るっていうの?
あんただって、初めから今みたいに余裕をかましたキスなんかしてなかったでしょ! ……たぶん。

もしも、あんなやつが彼氏になったら、いちいち反応が気になって、うかうかとしてらんないよ!
キスどころか、手を繋ぐのだって、何かしらの言葉が飛んできそうで。その度、初心者のわたしは萎える一方じゃない!

……だけど、アイツって、彼女に対してはどんな顔をしてるんだろう。

わたし相手みたいに、毒吐いたり嫌味な態度を取ったり? まさか、仕事中のような、女性なら誰もが足を止めてしまうような笑顔を振りまいたり? ……いや、プライベートでまで、それはないか。

……でも、〝彼女(トクベツ)〟相手なら……。


足早に歩いていた速度が自然と落ち、いつしかピタリと足を止めていた。
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