イジワル上司に恋をして
クローズしたあとにはすっかりと忘れ、いつもと同じように裏の片付けをしていたとき。
「なっちゃん。お疲れさま!」
「あ。お疲れさまです」
「ごめんね? 週中のはずが、意外に忙しくて……」
「え? いえ……」
香耶さん、なんで謝るんだろう? ブライダルの手伝いを、わたしにちょこちょこ頼んだりしたからかな? そんなのいつものことなのに。
きょとん、としたまま、腑に落ちない思いで返事をすると、香耶さんが笑顔で言う。
「で、どうする? なっちゃんも来れる? 歓迎会」
「歓迎、会……ああ!」
そうだ。そうだったよ! 歓迎会がある、って誘われたの、今日じゃん!
すっかり忘れてたわたしってどうなの……。でも、考えたら、新しい部長なんて、今日フロアにいた? 全然そんなような人、気付かなかったけど……。
「あー。さては、忘れてた?」
「あ……あはは。すみません」
んー……どうしよう。実は、お財布の中、結構淋しいんだよね、今。
けど、ここでの“歓迎会”って、その人にとっては、その一度しかないわけだし……。
初対面の場が外、っていうほうが、一気に仲良くなれたりするかな?
頭の中で『行く』『行かない』でせめぎ合っていると、わたしの背後に香耶さんが視線を移したのに気付く。
不思議に思って振り返りながら見上げると――。
「仲江。あそこ、オレの場所?」
背が高くて、細身のスーツが、まぁよく似合う身体。
ネクタイから、ゆっくりと視線を上げていく。
間近だからだけど、それにしても、見上げる首が痛いほどの身長差。
シャープな顎から顔を確認すると、はた、と目が合い時間が止まる。