イジワル上司に恋をして

「オシャレなお店ですね」


目だけでチラチラと周りを見ながら言うと、西嶋さんがうれしそうに答える。


「気に入ってくれたならよかった。ここ、バーでもあるけど、ランチもやってるほどゴハンが美味しいんだ。それと、あれ」


そう言われて、西嶋さんが控えめに指をさす方へ視線を向ける。
カウンターの奥を示していて、その先を見た。
バーだから、お酒のビンやグラスがずらりと並んでるのがもちろん視界に入る。けど、西嶋さんが伝えたいのはそれじゃないのだと、一目でわかる。


「うわぁ。夜景だ……!」
「そうなんだ。ココ、結構綺麗な景色見えるでしょ。立ってるときより、カウンターに座ってるときの方がその景色が見える位置に窓があるって、すごいよね」
「あ、確かに。計算されてるんですかね? すごい」


座った目線の高さに見える景色。
暗くなった窓ガラスには、ぼんやりとした店内の明かり。それと、窓際に並んでるお酒のボトルが反射して。
その奥に、自分の顔。そして、焦点をさらに向こうに合わせると、人工的な光が点々と美しく浮いて見えた。


「まず、なんか食べようか? お腹空いてるよね?」
「あ、はい」


そうして、西嶋さんのオススメをそのまま注文してもらった後に、久方ぶりに目を合わせた。
べつに悪いことも、やましいこともない。だけど、彼のくっきりとした二重の瞳に見つめられると、なんだかドキリとした。


「今日は、突然ごめんね」


軽く頭をさげながら謝られる。確かにびっくりはしたけれど、謝られるようなことでもないと思ったわたしは、慌てて返事を返す。

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