イジワル上司に恋をして
ぐるぐると脳内で、西嶋さんが言う言葉の〝理由〟を考える。
本当は、もっと、自惚れた解釈が頭を掠めていた。けど、あまりに自分に都合が良すぎて、イタイ女かな、って思って。だから、そっちのセンはなるべく考えないようにしていたのだけど――。
「あんなふうに奪われるくらいなら、無理やりにでもおれが送っていけばよかった……ってずっと後悔してた」
「……あ、の……それって」
動揺の色を浮かべた瞳で西嶋さんを見つめる。
すると、心を決めたのか、逸らしていた目を真っ直ぐわたしに向け直すと、彼は気恥かしそうに小さく微笑んだ。
「……うん。そう。おれ、やっぱり鈴原さんのこと、好きみたい」
「えっ……!」
予想もしない展開に、思わず声をあげ、手にしていたグラスを倒しそうになってしまう。
大きく揺れた、オレンジ色のカクテルに目も向けず、わたしは思考回路が一時停止してしまっていた。
――大人になってから、まともに告白をされたのは初めてだ。
少しずつ頭が働き始めると、一番にそんなことを思った。
過去、告白されたことは1回だけある。自分から想いを告げるだなんてことは、一度もした試しがない。
たった一度の告白も、高校時代だから、もう6,7年前の話。
そのときに、舞い上がってしまったわたしは、そのままOKして付き合い始めて。結局、嫌いになったとかではないけれど、思い描いていたものとはかけ離れていていたんだとのちに思う。その人とは、半年と持たずにお別れした。
当時からなんとなく思っていたのは、別れた理由は彼だけじゃなくて、自分の理想と言う名の思い込みが強かったせいじゃないかということ。
それから、そんな自分のところを意識はしてるから、少しは現実的に相手に求める〝ライン〟みたいなものは突拍子もないほど高いものではなくなったとは思う。
それでも、やっぱり脳内での恋愛に勝るような出来事も現実には起こり得なくて。
いつのまにか23になって、ほぼ、経験値ゼロのまま、今に至るわけだ。
――そんなわたしだから、ヤツに笑われるんだ。
『コドモ』だ……って。