イジワル上司に恋をして
カラン、とグラスの内側で氷が崩れて音がする。
その音にハッとして、わたしは現実に引き戻された。
未だ目の前にいる西嶋さんは、わたしを見つめていて。
『どうしよう、どうしよう』とテンパったわたしは、後先考えずに口走る。
「で、でででもっ。由美はっ……」
「やっぱり」っていう単語に、思わず口を滑らせてしまった。
しまった、と言わんばかりに、わたしは肩を竦めてちらりと西嶋さんの様子を窺う。
……けど、彼の反応は全く思っていたのと違うもので。
「え? なんで由美ちゃん?」
それはもう、『話変わったの?』っていうくらいに、きょとんとした顔。
わたしが想像してたのは、もっとこう……『なんで知ってるの?!』みたいな、焦りみたいなものだと思ってたから。
「あ。あー……と、その。そうですよね。もう時間も経ってますし、そういう気持ち、薄れますよねぇ!」
西嶋さんが、由美を気に行ってたのは大学在学中だったわけだし!
それから数年経って、その間会ったりしてなければ、好きだった気持ちも過去のものになっていくよね。
そう解釈してわたしが言うと、西嶋さんは、一層眉間に皺を作って首を傾げてる。
「……え? ちょっと待って。……もしかして、とは思うけど」
「あ! す、すみません! 大丈夫です! 由美には一度もそういうことを言ったことないですし」
「いや。そうじゃなくて。っていうか、それ。なんか、絶対誤解してるよね?」
「誤解??」
なんだろう。どういうことだろう?
今度はわたしが大きく頭を捻るように聞き返す。
すると、窺うように、西嶋さんは聞いてきた。
「おれが、由美ちゃんを好きだった、ってこと?」
ストレートに、しかも本人の口から言われてしまうと、どう反応したらいいのかわかんない。
ちょっと気まずい顔をして、わたしは小さく頷いた。