イジワル上司に恋をして
夜の薄暗い中というのと、今日も少し酔っているというのと。
なんだかひとごとのようにも思えてくるシチュエーションに、電池が切れた機械のように、わたしは微動だにせずに彼を見ていた。
すると、西嶋さんは目を伏せて、それからゆっくりと瞼を開ける。
その瞳は、とても真剣なもので……相手の緊張がわかると、自分にもそれが伝染していって。
……息すら出来なくなりそう。
「さっきの話だけど。冗談とかじゃなくて、本当だから。鈴原さんのこと、いいなぁって。大学のときは漠然とそう思ってた……でも、再会して、初めてふたりで話とかしてたら、やっぱり、おれ……」
あああ、うるさい! わたしの心臓!
わたしの日々のシナリオでは、こういうときはどんな流れだったっけ?
憧れの彼が自分に好意を抱いてくれていて、それを告げられて……。
控えめに、首を縦に振るだけで、想いは伝わって。それから、彼がそっとわたしに触れてきて……。
きっと、そんなような感じ。
絵に描いたような、ありがちな想像しかしてないもの。
だけど、現実(リアル)では、コクリと頷くことも出来なくて……。
「鈴原さんて、いまさらだけど、付き合ってる人とか……好きな人、いる?」
もたもたとしてる間にも、話は進んでいく。
ここでは、ようやく首を横に振ることが出来るくらい。本当は言葉で伝えたいのに、喉が張り付いたように声が出なくて。
わたしの小さな反応を見た西嶋さんが、安堵の表情を浮かべたのが見えた。
そして、一句ずつ、丁寧に言う。
「それじゃあ、おれと、付き合わない? ……どうかな」
夢にまで見た、理想の男の人が、自分に告白をしてくれている図。
由美には散々、『妄想の方がいい』なんて言っていたけど。目の前の彼が、その妄想に近い人なら、そんなこと言ってられないよね?
「……わ、わたし――――……」
……だから、〝答え〟は簡単なはず。